大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)781号 判決

一、被控訴人の本訴請求を認容すべきことについては、左記判断を加える外、当裁判所も、原判決とその判断を同じくするものであるから、原判決の理由を引用する(ただし、原判決第六枚裏第七行目「親権者の一人により」を「親権者の一人が」と訂正する。)

(一)、控訴人は、本件特許権等の発明または考案は、いずれも、被控訴人がしたものではなくて、その父である宮沢勇(秀明ともいう。)がしたもので、被控訴人は単に、それらの権利の名義人になつているに過ぎないものであるから、本件特許権等の実質上の権利者は、宮沢勇であつて、被控訴人ではない。従つて、本件特許権等を控訴人に譲渡する契約について、被控訴人の親権者であつた被控訴人の父母の親権行使という問題は起り得ないものである旨主張する。

しかしながら、特許権及び実用新案権はいずれも、設定の登録によつて発生する権利であつて(特許法第六六条第一項実用新案法第一四条第一項旧特許法(大正一〇年法律第九六号をいう)第三四条、旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号をいう。)第六条第一項)、仮りに、真実の発明者または考案者であつても、その者の名を以て設定の登録を得ない限り、その者が特許権または実用新案権を取得することはなく、反対に、真実の発明者または考案者でない者でも、その者の名を以て特許権または実用新案権設定の登録がなされた以上、その権利を無効とする確定審決がない限り、その者が当該特許権または実用新案権を有することは、法律上これを否定し得ないものといわなけばならない。しかるに、本件各特許権及び実用新案権が被控訴人の名を以て設定の登録がなされており、逆に、宮沢勇の名を以て設定の登録がなされていないことは当事者間に争いがなく、しかも、被控訴人の特許権または実用新案権について、これを無効とする確定審判のあつたことは主張も立証もないところであるから、仮りにこれら権利の対象たる発明または考案の真の発明者または考案者が宮沢勇であつたとしても、本件特許権等は、実質上たると形式上たるとを論ぜず、被控訴人に属するものといわなければならず、反対に、宮沢勇を以て権利者であるということはできない。そして、被控訴人は、昭和一二年三月二日生れであつて、本件特許権等について控訴人に対する譲渡契約がなされたとされている昭和二九年三月三一日当時は一七才に達したばかりの未成年者であつたのであるから、右譲渡契約は、親権者の同意を得て被控訴人自身がこれをするか、被控訴人の親権者が被控訴人を代理してこれをするかしなければならなかつたわけである。控訴人の前掲主張は、右に説明した特許権及び実用新案権の特質を理解せず、これを以て民法上の財産権の例を以て律しようとするものであつて、採用の限りではない。

(二)、控訴人は、更に、宮沢勇は、自ら、被控訴人の親権者として控訴人に対する本件特許権を譲渡する契約を締結しながら、更に、自ら、被控訴人の親権者として、右契約に関する親権行使に関する瑕疵を主張して本訴を提起することは、禁反言の法理に反して許されないことである旨主張する。

しかしながら、父母が共同親権者である場合、親権者の一方が共同名義でもなく、かつ、他方の親権者の同意を得ることなく、自分だけで、子を代理してその財産権に関する法律行為をした場合に、その行為の無権代理行為たることを主張するには、民法第八一八条第八二五条等の規定に従うべきものであつて、この場合、その無権代理行為をした親権者が親権の行使から除外されるべき理由はないから、本件において、宮沢勇が被控訴人の親権者として、共同親権者たる宮沢かつよ(被控訴人の母)とともに、被控訴人を代理して、本件特許権等譲渡行為が無権代理行為であることを主張して本訴を提起したからといつて、これを以て不法なものということはできない。のみならず、被控訴人は、昭和三二年三月二日を以て成年に達し、その後は、被控訴人自身が本件訴訟行為をしているのであるから、現在における被控訴人の態度は、自ら締結した法律行為の効力を否定しているものとはいわれない。よつて控訴人の前記主張は採用し難い。

(三)、なお、控訴人は、被控訴人の母かつよは、本件特許権等の譲渡行為に関しては、何ら異議なく、これを黙認していたものである旨主張するが、乙第七号証の一ないし四を以ては、いまだ右事実を肯認し難く、他に右事実を認めるべき証拠はない。

〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

(1) 被控訴人の主張

1、本件各特許権及び実用新案権(以下本件特許権等という。)は、形式上も実質上も被控訴人に属するものである。すなわち、被控訴人は幼時から機械工作等に興味を持ち、小学生の頃から独力を以て幾多の発明考案をするとともに、父宮沢勇(秀明ともいう。)の指導の下に、天才的知能を発揮していたが、たまたま、昭和二五年頃、当時一三、四才であつた被控訴人が、父勇の不可能としていた本件特許発明の原理を考案したので、父勇は、被控訴人の右独創的思想と考案とを尊重し、同人に代つて右特許申請手続のみをしたものであつて、本件特許権等は、名実ともに被控訴人に属するものである。

2、本件特許権等に関し、宮沢勇が単独で被控訴人の親権者として、他人と契約をしたこともあるが、これにつき、所要の登録をする場合には、勇と被控訴人の母かつよとが共同親権者として手続をしていたものである。

3、その他、控訴人の後記主張中被控訴人の主張に反する点は否認する。

(2) 控訴人の主張

形式的に観察すれば、被控訴人は、当時未成年者であつたのであるから、本件特許権等の譲渡契約につき、被控訴人の父宮沢勇(秀明ともいう)と母かつよとが共同して被控訴人を代理しなければならなかつたものといわれる。しかし、実質的に考察すれば、右の判断は失当である。元来、本件特許権等の対象たる発明または考案は、いずれも被控訴人自身がしたものではなくて、その父勇がしたものである。故に、本件特許権等の実質上の権利者は、宮沢勇であつて被控訴人でなく、被控訴人は単なる名義人に過ぎない。このことは、宮沢勇が、裁判外において、しばしば公表しているところである。ところで、民法第八二五条は、財産権が実質的にも子に属している場合に、子を保護するために適用される規定であつて、子が単に財産権の名義人になつている場合には、同条は適用さるべきではない。また、財産権の実質上の権利者と名義上の権利者とがある場合、その財産の処分権が、実質上の権利者に属し、何人がその財産権の名義人であるかは、対抗力に関して問題となるに過ぎない。本件においては、実質上の権利者である宮沢勇が、被控訴人を代理して控訴人との間に本件特許権等の譲渡行為をしながら、その譲渡行為の無効を主張する本件訴訟においても被控訴人の代理をしているが、かくの如きは、取引の相手方たる控訴人をして、実質上の権利者からの権利の譲渡を受けながら、法律上の保護を受け得ない状態に陥らしめるものであつて、不当である。また、本件特許権等については、母である親権者は、権利の発生ならびに譲渡について何ら異議もいわず黙認した状態にあり、しかも、これらによつて金銭だけは取得して自分らの生活に供しながら、他人の生活はこれを破壊して顧みないという態度をとつているものであつて、許さるべきものではない。これを要するに、本件特許権等の実質上の権利者は宮沢勇であり、被控訴人は単にその名義人に過ぎないものであるから、本件特許権等の譲渡に関しては、被控訴人のための親権行使という問題は起り得ず、宮沢勇が被控訴人を代理して、本訴において、親権行使に関して本件特許権等の譲渡行為の無効を主張することは禁反言の法理に反するものであるから、被控訴人の本訴請求は棄却されるべきものである。

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